『 昆虫なんでもQ&A 』 では、昆虫に関する素朴な疑問などをまとめてあります。
どこに行っても昆虫を見かけますが、いったい昆虫は世界中で何種類いるのですか?
安富和男著 「 ゴキブリ3億年のひみつ 」 ( 講談社刊 ) 【 1993 】 によると、 「 全動物の種類数250万種のうち、昆虫はその60パーセントにあたる150万種を超える。180万種という人もある。まだ発見されていない未知の新種を加えると、実際には300万種の昆虫がいるだろう。 」 と書いてあります。
昆虫の種類数は確認できないため、人によって大変大ざっぱな数字が出されます。100万種とか、300万種とか、人によっては1000万種とも…。いずれにしても、動物界の種類数の大半は、昆虫の仲間であるということは間違いないでしょう。
世界で最も大きいカブトムシは、ヘルクレスオオツノカブトですか?
体長 ( ツノの先からお尻までの長さ ) という点では、文句なくヘルクレスオオツノカブトでしょう。確かな情報では、大きいもので17cmに達するものがいて、未確認情報では、18cmの個体もいるといううわさがあります。ただ、ボリュウムという点では、マルスゾウカブト、アクティオンゾウカブトなど大型のゾウカブトの仲間もその候補に挙げられます。ツノは短いものの、体の大きさでは、ヘルクレスオオツノカブトをしのいでいます。
体長ではヘルクレスオオツノカブト、ボリュウムではゾウカブトの仲間というのが、世界最大を競うカブトムシでしょう。
昆虫の数え方は、ハエ1匹 ( ぴき ) とかチョウ1羽 ( わ ) とかいろいろな数え方をする人がいますが、どれが正しいのですか?
学術的には、頭 ( とう ) で統一されています。ハエ1頭、チョウ1頭、ノミ1頭といった具合です。では匹 ( ひき ) などが間違いかといえば、習慣的に使う場合は別にダメということではありません。ただ、羽 ( わ ) というのは、イメージとしてチョウ、ガの仲間にしか通用しないでしょうし、昆虫の 「 はね 」 は、 「 翅 ( はね ) 」 という字を使うように、鳥などの 「 羽 ( はね ) 」 とは区別していますので、 「 羽 ( わ ) 」 という数え方は、昆虫にはあまりそぐわないように思います。
昆虫の数え方は、正式には、 「 頭 ( とう ) 」 を使い、習慣的には 「 匹 ( ひき ) 」 も可ということでいいと思います。
昆虫の標本を作りたいのですが、注射器や薬のセットはどこに行けば手に入れられるでしょうか?
昔よく使われた 「 昆虫採集セット 」 「 標本製作セット 」 という道具は、今ではほとんど見られなくなりました。赤い液体 ( 殺虫用? ) 、青い液体 ( 保存用? ) 、それを昆虫の体に打つための注射器がセットの内容ですが、なくなった理由は、これを使うと標本がかえって腐ってしまうからです。
標本には条件が二つあります。一つは、いつ、どこで、誰が採ったのかということがわかるようにデータがついていること。もう一つは、腐らずに長持ちすることです。
腐って体がバラバラになったり、標本を食べる虫に食われて翅だけになったりしたものは、もう標本と呼べません。ですから、ちゃんと長持ちする標本を作りたいのであれば、それらのセットを使うのはやめてください。
では、どのようにすれば長持ちする標本ができるのかというと、形を整えてから、しっかり乾かすことです。十分乾燥をさせることによって、腐りにくい標本ができます。あとは、密閉性の高い標本箱に入れ、衣服の防虫剤を少量でいいですから、欠かさないように管理してやれば、長く持つ標本ができます。注射器で余計な薬品を注入する必要はまったくありません。
標本作りのための道具や、やり方は、すべてこのコンテンツに収録してありますので、ご覧ください。
昆虫の標本は、いったいどのくらい保存できるものなのですか?
1つ上のQ&Aでお答えしたように、しっかり乾かして、密閉性の高い標本箱に入れ、防虫剤を切らさないように管理してやれば、半永久的に保存ができます。光があまり入らず、低温で湿度の低い部屋で管理できれば、より理想的な保存ができます。
このコンテンツには、標本保存のための方法も収録してありますので、ご覧ください。
鳥と間違えて銃で撃ち落としたチョウがいると聞きましたが、本当ですか?
これは、世界で最も豪華、華麗なチョウの一群トリバネアゲハの中でも世界最大を競うチョウ、アレキサンドラトリバネアゲハのメスのことを指していると思いますが、半分は本当で半分は当たっていません。確かに、この種の発見時のメスは、1906年に発見者ミークによって散弾銃で撃ち落とされています。ただし、その理由は、捕虫網が届かない高さを飛んでいるこのチョウを手に入れるためということです。
この当時、高いところを飛ぶチョウを捕らえるのに、銃や、弓矢などを使うということが行われていたそうです。実際、近縁種であるビクトリアトリバネアゲハのメスで、散弾銃によって穴だらけになった標本が、子ども向けの図鑑などでも紹介されています。 ( 今森光彦・海野和男・松香宏隆・山口進共著 「 世界のチョウ 」 小学館の学習百科図鑑 【 1984 】 ) この標本は、1884年〜1885年、ナチュラリスト、ジョン・マックギリヴレイという人が、ソロモン諸島を探検したときに散弾銃で撃ち落とし、手に入れたもので、大英博物館に収蔵されているそうです。
「 鳥と間違えて銃で撃ち落としたチョウ 」 というのは、アレキサンドラトリバネアゲハの大きさ、豪華さを強調したい気持ちからできた伝説ではないでしょうか。
チョウをたくさん採集してきたのですが、展翅板 ( てんしばん ) が足りなくて、すぐに標本作りができません。何かいい方法はありませんか?
1本の展翅板で1回に標本作りできるチョウの数は、モンシロチョウくらいの大きさのもので6〜7頭、アゲハチョウの仲間のような大型のものですと、せいぜい3〜4頭くらいです。展翅板の数が足りなくて困ることは、よくあることです。
基本的には、展翅板の数を増やしてもらうことが解決策なのですが、展翅板など道具をそろえる間にチョウが乾いて硬くなってしまうのを防ぐ方法はあります。それは、タッパなど密閉性の高い容器に、三角紙に入ったチョウを入れ、しっかりフタをしたあと、冷凍庫に入れます。冷凍保存できますので、1〜2週間くらいの間は、容器から出して手で温めてやれば、採ってきたときと同じくらい軟らかくなり、翅を開くことができます。ただし、チョウの大きさやコンディションによって、期間は変わります。シジミチョウの仲間のような小さなものでは、あまりその効果は期待できませんが、アゲハチョウの仲間のような大きなものなら、一ヶ月以上たっても、軟らかい状態に保てる場合もあります。
ここでこの方法を使う場合に、注意していただきたい点が2つあります。1つは、必ずご家族の同意を得てからにしてください。冷凍庫は食品を保管する場所ですから、特にお母さんの了解を得ておかないと、大きなトラブルの原因になります。もう1つは、この方法に頼りすぎないことです。いつの間にか2ヶ月も3ヶ月も入りっぱなしということにならないようにしてください。ご家族に迷惑をかけますし、もう硬くなってしまっている可能性が高いでしょう。
硬くなってしまったら、軟化展翅法 ( なんかてんしほう ) をおこなってください。
チョウの 展翅法、軟化展翅法 は、このコンテンツに収録してありますので、ご覧ください。
ギフチョウという名前がついた理由は、岐阜県にしかいないからでしょうか?
違います。ギフチョウは、秋田県の南端から山口県の東端にかけての主に日本海側を中心に本州のみに分布する種で、決して岐阜県だけに分布するものではありません。最初に発見されたのが、岐阜県だったことがきっかけでこの名がつきました。
1883年 ( 明治16年 ) 4月24日、岐阜県農学校博物学助手だった名和靖 ( 後に、名和昆虫研究所を設立、初代所長となる ) が、校務で旅行中、当時の岐阜県郡上郡祖師野村 ( 現在の岐阜県下呂市金山町祖師野 ) で、見慣れないチョウを見つけ採集したのが、後に新種として知られるようになるギフチョウでした。では、ギフチョウという名を付けたのは名和靖かというと、そうではありません。種の判定を理学博士の石川千代松氏に依頼し、 「 確かに新種だろう。 」 というその返事が届くころには、靖の発見にわいていた地元の友人たちの間で、誰からともなくこの種を 「 ギフチョウ 」 と呼ぶようになり、気がつけば当たり前のように 「 ギフチョウ 」 と呼ばれるようになっていました。人一倍郷土を愛する靖にとって、この名は非常にうれしかったようで、そのまま使うようになったのです。
カブトムシやクワガタムシを飼育しています。死んでしまうと、庭に埋めていますが、なんだかもったいない気がします。腐らないように標本にすることはできるのでしょうか?
コンディションのいい標本を作りたいというのなら、飼育せずに、採集したらすぐに殺虫管などで殺して形を整えて、しっかり乾かすことをお勧めします。
それでは一度飼育してしまったものは、標本にならないかというと、そうではありません。通常の標本作りの前に、ひとつ作業を入れてください。それは、ぬるま湯を用意して、カブトムシやクワガタムシの体をきれいに洗ってやることです。飼育していると、体にどうしてもエサのカスなど腐りやすいものがついていることが多いので、それを取り除くわけです。その後、なるべく余分な水分をティシュなどでふき取って、普通の展足をしてやればいいのです。 ( 展足の作業については、このコンテンツの 「 カブトムシ・クワガタムシ 標本製作法 」 をご覧ください。 )
足や体の節がはずれたりしやすく、ボンドでくっつけるなどの作業をする必要があり、少し面倒ですが、せっかく愛情を込めて飼育したカブトムシやクワガタムシですから、死んでからも標本にして飾って楽しんでください。
チョウとガってどうやって見分けるのですか?
学術的には、チョウとガを分けることはしません。はっきりとした区別点がないからです。分類学上の位置は、 「 動物界 」 「 節足動物門 」 「 昆虫綱 」 「 鱗翅目 ( チョウ目 ) 」 と分けられ、この中にチョウとガが含まれます。そして、 「 アゲハチョウ科 」 、 「 シロチョウ科 」 他、チョウのグループと、 「 スズメガ科 」 、 「 ヤガ科 」 他、ガのグループが並列に並び、チョウとガの境目はありません。
しかし、日常的にチョウとガをひとまとめに考えるのが、耐えられないというのであれば、触角に注目してください。すべての場合に当てはまるわけではありませんが、日常的には、触角の形を基準に区別すれば、それほど間違えることはないでしょう。
触角の先がマッチ棒の先のようにプクッと膨らんでいる、あるいは、丸々っとした感じで終わっていればたいていチョウです。触角の先が鉛筆の芯の先のようにとがっているか、触角全体が櫛 ( くし ) のようになっていれば、ほとんどガです。一度触角をよく観察してみてください。